富裕層、ハゲタカ、ジョージ・ソロス、絶対収益、通貨危機、空売り、レバレッジ。そんなキーワードが浮かんでくる、「ヘッジファンド(Hedge Fund)」それがどういうものかを語る前にそもそもファンドとは何か、というところから説明を始めよう。

相対利益を狙う投資信託

ファンドは多数の投資家から集めた大きな資金を運用の専門家であるファンドマネージャーが株式や債券などの金融商品に投資して利益をあげ、それを出資比率に応じて分配する仕組みを持つ金融商品である。ファンドは公募ファンド(Public Fund)と私募ファンド(Private Fund)に分かれ、いわゆる「ファンド(投資信託)」は公募ファンドのことを指す。

公募ファンドは広く一般の投資家から出資を募ることのできるファンドで銀行、証券会社の支店やウェブサイトなどを通じて不特定多数の投資家に対して販売されている。投資信託では投資家保護の観点から法律で先物取引やデリバティブ、空売り(ショート)などハイリスクだとされている投資手法の活用には一定の制限があり、パフォーマンスの良し悪しは「どの銘柄をいつどの程度組み入れるか」ということにかかっている。

つまり投資信託のファンドマネージャーの手腕は基本的にこれからより上昇する銘柄を選んで買う(ロング)という制限の中でしか発揮できないと言っても過言ではない。従って世界同時株安のような不況下では投資信託はいくらがんばっても利益を出すことは困難であるという状況に見舞われる。

また投資信託は各ファンド毎に設定されている競争相手である「ベンチマーク」を上回ることを目標に運用されている。例えば日経平均株価をベンチマークにした投資信託は日経平均のパフォーマンスを上回ることを目指しており、それを達成していれば優良なファンドだとみなされる。仮に一定期間に日経平均が下がっていても投資信託のパフォーマンスがそれより上回っていれば良しとされるのだ。

つまり、公募ファンド(投資信託)はベンチマークに対してより良い「相対収益」を狙うファンドであるということが言える。

絶対利益を狙うヘッジファンド

それに対して「絶対収益」を狙うのがヘッジファンドということになる。絶対収益というのは好況時でも不況時でも、株価や債券価格が上昇していても下落していても常にプラスの利益を狙うことことである。そのためにレバレッジをかけたり、空売り(ショート)を駆使したり、デリバティブなどでヘッジしたりとあらゆる手法を使うのである。

ヘッジファンドはもともと監督官庁の規制や届け出義務のない私募ファンド形式で組成されるのが主流で、対象は大きな資金を持ち、投資に対して深い知識を備えた適格機関投資家であった。(私募ファンドは50名未満の人しか勧誘してはいけないというルールがあり、この部分で強い規制を受けていると言える)しかし最近では小口化したヘッジファンドが投資信託でで募集され一般投資家も参加できるようにだんだんとなってきている。

ヘッジファンドの運用で使われる様々な手法が比較的新しい金融工学によって生み出されたという経緯があり、金融当局は早期の段階ではその仕組みを難解でリスクの高いものとみなしていたことが原因ではないかと思う。デリバティブなどが生まれてある程度時間が経ち、新しい金融工学に基づく手法が定着するとともにプロの機関投資家だけでなく一般の投資家が参加しても問題がないと当局がみなし公募の対象にとなってきているのだろう。投資家としてはいつどんなときでもプラスのリターンを狙ってくれるというのは頼もしい。

ヘッジファンドの真髄

伝説のヘッジファンドと呼ばれるジョージ・ソロスとジム・ロジャースによって運営されたクオンタムファンドは10年で4200%という驚異的なパフォーマンスを記録し、他にも出資者の富を爆発的に増やしたヘッジファンドは少なくない。一方でその破綻で世界を恐慌の一歩手前まで陥れたLTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)など、巨大な損失を出した歴史もヘッジファンドにはある。

2009年から2016年までヘッジファンド全体の運用成績は米国の株価指数であるS&P500Indexのパフォーマンスに及ばないという失態も演じている。銘柄の選択といういわばシンプルな投資信託の運用よりも、あらゆる投資手法を駆使して常に利益を狙うというのは事程左様にハードルの高いものだとも言えるのだ。

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