久しぶりの大きなモデルチェンジによる需要増大で品薄が続いているiPhoneX。依然としてその供給の鍵を握っているのが中国の工場だ。最近iPhoneXの生産をおこなっている鴻海科技集団(Foxconn)のブラックな労働環境が再び取り上げられた。鴻海科技集団と言えば昨年シャープを買収した台湾資本の企業だが2010年にiPhone4の生産をおこなっていた同社傘下の富士康のシンセン工場で10名以上の従業員が過酷な労働を苦に自殺したということでも有名だ。

今回は河南省の省都、鄭州の工場でインターンとして働いていた未成年の学生たちが告発をした。1日11時間労働を強いられたうえに3ヶ月にわたるこのインターンを完了しなければ卒業が認められないためほぼ強制労働同様の状態だったとのこと。学生たちには気の毒なことだし、これは昨今の人権意識の高まった現代では国際的な非難を浴びる出来事だろう。が、そこを論じるのは他のメディアに譲る。

僕が感じるのは中国の経済の底力は依然として強力だということである。産業革命時の英国での児童労働や男女を問わず搾取的な労働条件は社会科の教科書に載っているとおりだし、日本でも集団就職で地方から都市に出てきた10代の少年少女が高度経済成長を底辺で支えていた。

経済成長を遂げた先進国には多かれ少なかれ同じような時を過ごしてきた、自分たちが散々同じことをやって豊かになったあと”やはりあれはずいぶんひどいことをしたな。。”と思いあたり、現代新興国の若年労働を批判するのは矛盾と虫の良さを感じるがそれも本題からそれるので置いておく。

いずれにしても中国ではこのご時世においても国際的に非難を浴びるような雇用と労働実体が横行するがままになっているということである。卒業と引き換えのインターンということでそれほど多くの報酬も支払っていないはずだ。

経済成長がある程度奴隷的な労働に支えられてきたという歴史的事実から見れば、人権に対する意識の進んだ先進国群よりも中国はなりふり構わずに経済成長に邁進できる大きなオプションを持っていることになる。欧米諸国や日本が労働者の権利を守りながら折り合いをつけて経済活動をおこなっているのを横目にこちらから見ればルール違反とも言える方法が使えるのである。

あちらにしてみれば「自分たちには自分たちのルールがある」ということかもしれないが。政治的には習近平国家主席がより強固な独裁基盤を築きつつある。国民の権利は阻害されるが国全体をひとつの方向に向けて進めるという一点においては独裁とか全体主義は効率が良い。

冒頭の例は製造業で起こったことだが、中国は20世紀型産業である製造業だけでなくITテクノロジーなど先進的な産業においてもすでに中国は先頭集団にいて、そこでも同様のオプションが使えるので手強い。人海戦術を使って10億を超えると言われている世界のウェブサイトを手動でチェックして有害なものだけをひとつずつアクセス不能にするというとてつもない単純作業能力が中国にはあるが、同様のエネルギーを高度な科学技術の開発にもつぎ込めるのである。不眠不休、壊れたら取り替えるだけ。。先進国が人権的な観点から歩を緩めなければならない傍から中国が全速力で走りぬけてゆくイメージか。

経済の回復はやがて政治的、軍事的な影響力強化につながってくるはずだ。これまでアジアではもっとも発展した国であった日本の国民にしてみれば、昨今メディアに踊る中国の景気減速とか成長鈍化とかの文字を見ればどことなくほっとした気持ちが沸き起こるのは禁じ得ない。

だがそんな気持ちをぐっと抑え、隣国国民としての危機感と投資家としての期待感をもってこれからもこの国に注目し続けてゆかなければならないと感じる。

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