世界100カ国以上で非居住者の資産情報を交換する「CRS(共通報告基準)」が稼働してから2年が経った。

HSBC香港ではまず2017年1月1日以降に口座開設を行なう日本人はマイナンバーの通知が必須になった。最初はある程度の抵抗感はあったが喉元をすぎれば何とかで今ではそれを避けるために海外に口座を持つことを諦めるような人はほぼいない。昨年からは2016年以前に口座開設した人に対しても納税者番号の聴取が進んでいる。これによりかつて有名だったカリブ海(ケイマン、BVI等)やヨーロッパ(スイス、リヒテンシュタイン、ルクセンブルグ等)、アジア(香港、シンガポール等)のタックスヘイブンの匿名性、守秘性はほぼなくなった。

米国のタックスヘイブン

タックスヘイブンそのものがなくなったわけではない。税率がゼロか非常に低い国・地域は依然として存在するが情報の透明度が高まったということである。もちろん一部の利用者にとって大いに魅力を失ったことにはなるが。。さて透明性を追求する世界各国の取り組みの中で、依然としてかつてのタックスヘイブンのあり方をキープしている国がある。

「アメリカ合衆国(USA)」

イメージ的にはタックスヘイブンとははるか遠い存在である。というより、これまでにも「FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)」を制定して自国民が口座を持つ海外の金融機関に関連の情報を報告を強制したり、プライベート・バンクの匿名性の高さで有名だったスイスに圧力をかけて情報開示をさせたり、とどちらかというとタックスヘイブンとか匿名性・守秘性という部分を潰す方向で動いている。そのアメリカの中にタックスヘイブンが存在する。

アメリカの州はそれぞれが国家に近い高度な自治権があり国全体の法律である連邦法の他に州別にまったく違った法律(州法)が定められている。その州法によって税率がゼロだったり、非常に安い税率が定められている場所がある。具体的にはネバダ州、ワイオミング州、サウスダコタ州、デラウェア州である。

ネバダ州、ワイオミング州、サウスダコタ州

まずアメリカにおいては実際に事業を営む州と法人を登記する州が同じでなくても良いというのが大前提としてある。上記のうちネバダ州、ワイオミング州、サウスダコタ州には個人住民税と法人住民税がないうえにLLCなどの法人登記が非常に簡単にでき匿名での設立も可能になっている。さらに他の国や州に居住している個人がこれらの州に財産を置いていた場合、仮にその人が破産した場合でも倒産隔離法という規定により州内の資産は差し押さえることができない。ワシントン州に本拠に置くマイクロソフトやカリフォルニアのアップル、イリノイのキャタピラーなどの大企業がこうした国内のタックスヘイブンを利用して節税をおこない、本来は所属州に支払われるはずだった巨額の税金を社内に留保しているのは有名な話だ。

デラウェア州

デラウェア州も州外でおこなう事業に関しては州法人税課税がなく(州内の取引に関しては8.7%の課税あり)、売上税も発生しないという税制的メリットがあるがこちらはどちらかというと上場企業の登記地として人気がある。この地位を確立して久しいデラウェアはこれまでの裁判の判例も豊富で会社法上の争いにおける解決が早いという側面があると同時に株主への配当要件が緩かったり、株式償還や自社株取得が容易に行えたり、敵対的買収に対する防止策を取りやすいなど上場企業に役立つ制度が充実しているからだ。デラウェアは人口90万人弱の小さな州だがその名声もあって人の数よりも多い94万社(2016年時点)以上の会社が存在している。

プエルトリコ

上記の州の性質とは少し趣は異なるがアメリカのコモンウェルス(自治連邦区)と呼ばれる州とはまた別の自治体であるプエルトリコは「プエルトリコからサービスを輸出する企業に対しての法人税を4%とする」という点、そして「アメリカ本土からプエルトリコへの移住者に対してはキャピタルゲイン税や利子・配当に課税しない」という特色を備えている。このために本土から富裕層のプエルトリコ移住者が増えている。

最大のタックスヘイブンになるアメリカ

ちなみにFATCAをもって海外の金融機関に自国民の資産を報告させるという力技を使えるアメリカは加盟国同士の金融資産情報交換システムであるCRSには入っていない。つまり国内の情報を他国と共有する必要はないのである。それは外国人が米国内に保有している金融資産情報を海外に対し秘匿できるということを意味する。もう3年近く前のことになるが「パナマ文書」で多くの国の富裕層のタックスヘイブン利用の情報が流失した。その後カリブのオフショアからはずいぶん多くの資金がアメリカ国内のタックスヘイブンに移動したという。

パナマ文書は第一段階では中国、ロシア、英国などの幹部周辺の情報を含めて多くの情報が流出した、もちろん日本人の情報もあった。しかし米国人の情報はのちに公開されると言われながら結局そのときが訪れることはなかった。


0
2011年の発行開始以来毎週配信されているBorderless Group代表玉利将彦のメールマガジン

メール講座【国境なき投資戦略】

* 入力必須