多くの投資家がそう信じている。
ところが現実の市場は、しばしばその予想を裏切る。
たった一つのAIモデルの登場で消えると見られた業界が、わずか1カ月で史上最高値を更新する。
そんなことが、現実に起きた。
Contents
アンソロピックが市場に刻んだ1年
この1年、AIをめぐる物語の中心には、常にアンソロピック(Anthropic)がいた。
コーディング支援から始まり、デスクトップ業務の自動化、そしてサイバー攻撃能力をめぐる安全保障問題に至るまで。
同社のプロダクト史は、そのままAI関連株のボラティリティの歴史でもある。
今回はその流れを時系列で振り返り、市場に何が起きたのかを整理したい。
■ Claude Code 一般提供開始(2025年5月)
物語の起点は2025年5月22日。
同年2月に研究プレビューとして公開されていた「Claude Code」が、一般向けに本格提供された。
ターミナルから直接コーディング作業を委任できるこのツールは、わずか半年でARR(年間経常収益)がゼロから10億ドル規模へと急成長した。
「2025年はコーディングAIの年」を象徴する存在となり、AI関連銘柄への資金流入を後押しした。
同年10月にはWeb版も登場している。
■ Cowork 研究プレビュー発表(2026年1月)
2026年1月、同社は「Claude Cowork」を発表する。
これはデスクトップ上で、AIがユーザーのローカルフォルダに許可ベースで直接アクセスし、文書の読み書きや作成を代行する”コンピュータエージェント”だ。
ファイルを手動でアップロードする従来型チャットボットとは一線を画し、非エンジニア層の業務自動化に踏み込んだ。
2月にはGoogle DriveやGmail、FactSetなどのコネクタを加えた企業向け拡張も投入され、法人市場での存在感を高めている。
■ Mythos衝撃──ウォール街を揺らした”漏洩”(2026年4月)
潮目が一変したのが、2026年4月だった。
限定公開された最上位モデル「Mythos」が、ソフトウェアの脆弱性を発見・悪用する能力で「他のいかなるAIモデルをも凌駕する」とされ、市場に激震が走った。
発端は3月末。
設定ミスのあったシステムから流出したドラフト記事が引き金となった。
サイバーセキュリティ関連株は急落。
CrowdStrikeは一営業日で7%下落し、Cloudflareは4月10日に13%超の急落、Akamaiは3営業日で約20%を失った。
アンソロピックはMythosを一般公開せず、GoogleやAppleなど一部企業にのみ、「Project Glasswing」という枠組みで限定提供する方針を取った。
動揺は政界・金融当局にも波及する。
米国のベッセント財務長官やパウエルFRB議長が、ウォール街大手銀行の首脳とMythosの影響を協議する事態にまで発展した。
■ 反転──”葬られる”はずの業界が最高値へ
ところが市場は、当初の悲観を裏切ってみせる。
「AIがサイバー防御を不要にする」という連想は、むしろ「高度化する脅威に備える需要増」へと読み替えられたのだ。
5月、サイバー関連株は記録的なラリーを演じた。
CrowdStrikeは5月18日、618.83ドルの史上最高値で引け、Fortinetは好決算を受けて翌週に株価が32%上昇した。
一度はMythosに葬られると見られた業界が、わずか1カ月で過去最高水準を更新したのである。
■ Fable 5とMythos 5 一般公開(2026年6月)
そして2026年6月9日。
アンソロピックは最上位クラスのモデルを初めて広く一般公開した。
安全性を確保した「Claude Fable 5」と、サイバー能力を含む「Claude Mythos 5」の二本立てである。
Fable 5は、サイバーや生物・化学など高リスク領域への応答を遮断し、該当する場合は旧モデルに回答を委ねる仕組みを備える。
主要なクラウド基盤や開発プラットフォームでも、順次展開が始まっている。
この1年が教えてくれること
これら一連の流れが教えてくれるのは、AI能力の飛躍が、瞬時に資産価格へと転写される時代が来た、ということだ。
そしてもう一つ。
「破壊的技術=既存産業の終焉」という単純な図式は、必ずしも当てにならない、ということである。
次の一手が、どのセクターに次の地殻変動をもたらすのか――。
引き続き、注視していきたい。
※本稿は公開報道に基づく情報提供であり、
特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

