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「ヴィーガン(Vegan)」という名称をあちこちで聞くようになった。ヴィーガンは完全菜食主義者とか絶対菜食主義者と訳されることがが多いようだが、本来は革製品とか毛織物など動物由来の日用品の使用も拒否するヴィーガニズム(Veganism)から来ている。

菜食主義と言えば「ベジタリアン(Vegetarian)」という言葉の方が馴染みが深いが、ヴィーガンとの違いは完全に動物由来のものを拒否するかそうでないかというところにある。ちなみにベジタリアンは動物由来の食物を一部採るのがのその定義であるが、食べる範囲によってさらに三種類に分類されている。

ヴィーガンとベジタリアン

ヴィーガンを含めた菜食の度合の違いは以下の通りである。

ヴィーガン:植物性食品のみを食べる
ラクト・ベジタリアン:植物性食品以外に乳製品も食べる
ラクト・オボ・ベジタリアン:植物性食品以外に乳製品と卵も食べる
ペスコ・ベジタリアン:植物性食品以外に乳製品と卵と魚も食べる

ヴィーガン及びベジタリアン的な食生活に切り替える人が世界では急激に増えている。日本の観光庁は2018年には世界で6.3億人の菜食主義者がいるというデータを出している。

菜食主義者が増えている理由

現在2,000万人いると言われるアメリカの菜食主義者はここ10年ほどで6倍に増えており、イギリスでは人口の12%にあたる620万人の菜食主義者がいるという。人の主義や習慣にかかわることなので登録しているわけでもなく正確な数字を出すのは困難だと思うが、日常生活の肌感覚でも急激に増加しているのは間違いないと感じる。

その大きな理由としてはまず健康面だろう。長年の研究を経て、肉食がガンや心臓病、糖尿病になるリスクと高めるという統計や論文が多く発表されており、菜食にすることによりリスクを減少させることができるというのは人々が菜食主義者になる動機としては充分に強い。

また近年関心が高まっている環境問題や動物愛護の側面も菜食主義化へ背中を押す要因にもなっている。地球温暖化を促進し、気候変動につながっている温室効果ガス(二酸化炭素、メタンガス、水蒸気等)の18%程度は肉を生産する畜産業から排出されていて、これは自動車産業が出す量より多い。食肉になる家畜を育てるために使う飼料の輸送で発生する排気ガスから家畜の排泄物や生理現象から出るメタンガスや一酸化窒素などが相当の量に上る。それどころか牧畜用の農地を開墾するために本来二酸化炭素を吸収するはずの森林が急激に減少しており、畜産が発展すれば倍の速度で地球温暖化が進むようなイメージを持って差し支えないような状況だという。

健康問題や法規制、増税などから喫煙者の数がピーク時の半分以下になっている現実と比較するのは少し乱暴かもしれないが、同じような傾向で肉食の習慣が縮小してゆくのは想像しておいて良いかもしれない。ただ禁煙者の減少によって生産も減ったタバコと違い、肉食をやめたからと言って人が食べる量が減るわけではなくその需要減は当然「肉以外のものを食べる」ことによって埋められてゆくことになる。

プラントベースミート

菜食主義にはなりたいが野菜だけでは飽き足らない層を満足させるのが「プラントベースミート(植物由来の代替肉)」である。プラントベースミートは穀物や大豆などの植物性の原料だけを使い味や食感を本物の肉に似せて加工した食物である。植物由来の原料で「肉」を作る試みは1970年代から進められていたがここに来て本物の肉と区別がつかないほどの技術レベルに達している。これから間違いなく世界の食肉市場のシェアを塗り替えてゆく業界について憶えておきたい。

ビヨンドミート(Beyond Meat)

ビヨンドミート(Beyond Meat)[ナスダック:BYND]は2009年に創業され、2019年に代替肉業界では初の上場を果たしたプラントベースミートのメーカー。2016年に開発された主力商品でハンバーガーのパティにも使われているビヨンドバーガーはえんどう豆のタンパク質を原材料に添加物を加えて作られている。

アメリカのスーパーではフェイクミートのコーナーではなく肉のコーナーにも置かれており、購入者の90%が菜食主義者ではないということからも本物の肉と遜色ない味であることがわかる。他にもビヨンドソーセージ、ビヨンドミートボール、ビヨンドチキン、ビヨンドビーフなどのラインナップを揃え、いずれは社名通り肉(Meat)を超える(Beyond)ことを目論んでいるに違いない。

インポッシブルフーズ(Impossible Foods)

これに対するビヨンドミートのライバルで「不可能な食べ物」を開発しようとするのが、インポッシブルフーズ(Impossible Foods)だ。同社はスタンフォード大学のパトリックブラウン教授が2011年に創業したスタートアップ企業。肉のおいしさの原因を研究した結果、血液の赤血球に含まれるヘモグロビンの成分であるヘム鉄が肉の旨味の主成分であることを見定め、特許技術でヘム鉄を培養することに成功。大豆やイモ類のタンパク質に肉の味を作る分子としてヘム鉄を加え、ココナッツオイルなどと結着させてミンチ肉を作ることに成功した。

未上場だがビル・ゲイツやグーグルベンチャーズ、香港の富豪である李嘉誠が率いるホライズンベンチャーズなどが出資している。(ちなみにビル・ゲイツは上場前のビヨンドフーズにも出資)米国全土のバーガーキングやスターバックス、香港でも多数のレストランで同社の主力商品であるインポッシブルバーガーを提供している。

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