エストニアはバルト海に面した人口約130万人の国。日本で言えばさいたま市より少し多いぐらいの人口規模である。1991年に旧ソ連から独立を果たしたリトアニア、ラトビアとともにバルト三国の一角をなしている。エストニア政府はその運営にITを取り入れており「電子政府」とも呼ばれる行政サービスを確立している。

エストニアの電子政府とe-residency

資源や産業に乏しいエストニアがIT立国化と行政の電子化を目指して国民に電子IDカードを配布したのは2002年。エストニア国民はそのIDカード一枚で社会保障に関する様々な手続から選挙、納税などの行政サービスが受けられる他、民間のサービスにも広く利用されている。日本のように手続きによって違う書類を用意して役所に行くような必要がないのだ。

かつては国民と居住権を持った外国人にだけ発行されていたこの電子IDが2014年からは非居住者の外国人にも取得可能になっている。これが「e-residency(電子居住)」と呼ばれるものである。外国人がe-residencyを取得するとオンライン上でエストニア居民になることができる。

エストニアはEUの加盟国なのでそこの居住者になればシェンゲン協定によって他のEU諸国にもパスポートの提示なしに自由に行き来することができる。。とついつい考えてしまうが実はそういうことではなくe-residencyには実際にエストニアに住むことのできるフィジカルな居住権は付与されていない。あくまでサイバー世界でのバーチャルな居住民ということらしい。

エストニアのe-residencyのメリット

”ではどんなメリットがあるの?”というのが素朴な疑問である。

現在e-residencyはエストニアに行かずに在外公館で申請が可能なので日本のエストニア大使館でも申し込みができる。このe-residencyがあればオンラインでエストニアで法人の設立や銀行口座の開設をすることができ、そこを拠点に事業展開ができる。

エストニアの法人税は20%だが利益は法人に留保しているかそれを再投資する場合は免税となり、配当したときに納税義務が発生するという特殊な税制になっている。利益を次の事業展開にどんどん投じてゆくことにより税制面での優位性が出てくるのである。起業(スタートアップ)のしやすい法制度が整備されているということであり、実際にヨーロッパ諸国のベンチャー起業家がe-residencyを通じて法人をエストニアで開業するということが急速に増加しているようだ。

またエストニアはこの電子政府の発想はもとよりオンラインチャット及び通話ツールの草分け的存在であるスカイプを生み出した国であることからも見て取れるように早くからIT立国を目指していたのでその技術レベルは高い。平均給与は約EUR1,100(約14万円)と比較的低水準にあり、英語もかなり通じるので知識豊富なエンジニアを雇用しやすいという点でとくにIT起業を立ち上げるのに有利な下地が整っていると言ってよい。

すなわち、
1.エストニア大使館でe-residencyを取得
2.オンラインで法人を設立(法人登記住所は必要だが住所貸しをしている会社がある)
3.法人銀行口座を開設(現時点では手続きのために現地へ行く必要がある)
という段取りを踏めばエストニア法人を立ち上げることができ、人件費が安く英語が通じるITエンジニアを雇用して事業展開ができるということである。また決算後の納税に関しても現地へ行くことなくe-residencyを通じてオンラインで完了する。ここが現時点でのe-residencyのメリットというところだろうか。

エストニア法人と香港法人の比較

エストニア法人と香港法人を比較すると、
1.外国人による法人の設立
・エストニア法人はe-residency申請後に設立が可能。法人登記のために現地へ行く必要はなし
・香港法人は外国人でもそのまま設立可能。法人登記のために現地へ行く必要はなし
2.法人銀行口座の開設
エストニア法人も香港法人も現地を訪問して口座開設手続をする必要がある
3.法人税
・エストニア法人は課税所得の20%
・香港法人は課税所得の16.5%(課税所得HKD200万以下の部分は8.25% ※2018年度より)
4.納税
・エストニア法人はオンラインで納税可能
・香港法人も銀行口座から税務局へオンライン送金が可能

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