毎年米国のシンクタンク「ヘリテージ財団」と経済紙「ウォールストリートジャーナル」が共同で発表している指数に「経済自由度指数(Index of Economic Freedom)」というものがある。

ビジネス拠点としての香港の利点

・財産権の保護
・汚職の少なさ
・政府支出の少なさ
・財政の健全性
・ビジネスの自由度
・労働の自由度
・通貨の自由度
・貿易の自由度
・投資の自由度
・金融の自由度

という10項目に100点満点で点数をつけ、それを平均したものがその国・地域の経済自由度指数となる。2016年度の香港の経済自由度指数は88.6で世界第1位。実はもう20年以上もトップの座に君臨している。ちなみに2位はシンガポール、3位はニュージーランド。アメリカは75.4で11位、日本の73.3で20位、中国は52.7で139位である。

香港の税率が低い理由

日本で言えば札幌市程度の面積に愛知県とだいたい同じ人口である730万人が暮らしている香港は世界の金融機関の上位100位のうちの実に75%が支店を設けているアジアの金融センターであり、関税のない自由港(Free Port)であり、そして毎年2,500万人以上の旅行客が訪れる世界有数の観光地である。

人口密度は6,361人/km2でマカオ、モナコ、シンガポールに次いで世界4位だが地形が山がちで人の住める土地の少ない香港では人口はわずかな平地に密集しており、体感人口密度はそれよりずっと高い。逆を言えば道路やライフラインなどのインフラ投資をわずかな狭い居住エリアに集中投下すれば良いので大きな財政支出が必要ないということでもある。

政府の歳出が少なければ、多くの税金を集める必要もない。カリブや南太平洋の島国のように税率がゼロということはないにしてもシンガポールとともに世界のタックスヘイブンの一角に数えられる香港の低税率はここに由縁がある。

香港法人の利便性

そんな地に根ざしている香港法人だからか経営するにあたってもストレスを感じることはあまりない。香港の法人税率は16.5%。昨今の法人税引き下げの取り組みの結果ようやく20%台になった日本よりはまだずいぶん低い。だが香港より法人税率の低いところはまだ他にもあるので(例えばアイルランドとか)これは決してトップクラスというわけではない。

香港法人の優位性は制度的なシンプルさとアバウトととも言える柔軟さにある。まず法人の設立は非常に簡単。香港法人は1名以上の株主及び役員で簡単に設立することができ、海外在住の外国人が株主及び役員になることも可能、多額の資本金も要らない(資本金HKD1で設立可能)ここは現地在住の取締役を置くことが必須となるシンガポール法人との違いでもある。

一方、香港法人ならではの特徴としては「会社秘書役(Company Secretaty)」の存在がある。会社秘書役は会社の役員ではないが登記事項が発生した場合所定の書式を公司登記所(Company Registry)に提出・保管したり、議事録や年次報告書(Annual Return)の作成を担う役割がある。会社秘書役は香港居住者あるいは香港法人であることが必要だ。

香港法人設立手続きと費用

また香港法人は業務範囲や活動にも制限がない。香港に会計事務所や法人設立代行業者が多数あり法人登記業務を簡単に委託することができる。設立手続きとして会社名、役員、株主、業務内容を決めて登記書類を提出する。10日から2週間程度で完了する。その間オーナーは香港を訪れることなく必要書類をメールなどでやり取りをするだけで良い。

会社設立初年度にかかる費用は法人設立事務代行費用、香港政府に支払う商業登記費用(HKD2,250/年※2017年現在)、会社秘書役年間費用、事務所住所レンタル年間費用の合計でざっくり20万円程度。2年目以降の維持費用はこの上記のうち法人設立費用を抜いて年間約15万円が相場である。この他、法人銀行口座の開設サポートや電話やメールの処理代行、役員及び株主のノミニーサービスなどがオプションで選択できるようになっているのが一般的である。

簡潔な運営が可能な香港法人

香港法人は中国語では”有限公司”、英語では”Limited”あるいは”Company Limited”と締めくくられる。

株主の有限責任によって運営される株式会社である。香港は全体的に税負担が軽く法人設立が簡単なこともあり、かつて税金対策用として盛んに設立されたBVIやセイシェルなどタックスヘイブンのオフショア法人と同類のようなイメージを持たれることも多いが香港法人はれっきとした事業を営むための法人である。

香港法人の法人税率は16.5%。世界各国の法人税率の中では比較的低めではあるが最低レベルというわけではない。だが税制面での簡潔さに大いなる優位性がある。日本であれば会社を運営していれば法人税以外にも事業税や法人住民税など別の税目があるが、香港の場合法人にかかる税金は法人税のみ。

また認められる経費の範囲が広いというのも利点だ。少しでも業務にからむ交通費や接待交際費は自分自身これまで10年の決算や会計監査をおこなってきてまったくストレスを感じることなく計上できている。備品については一時期次々に発売されるアップル社のパソコンやスマホ、タブレットなどを立て続けに購入計上したときに会計事務所から一度だけ

「会社の人員に対してOA機器が多すぎやしないか?」

という指摘を受けたことがあるが、オフィスにいるときや外出時などで使い分ける云々必要な理由を簡単に説明したら認められた。この経費計上の幅の広さは個人的にはもっともメリットが大きなものであると感じている。

香港法人を使ったオフショア取引

香港法人には「オフショア申請(Offshore Claim)」という制度がある。これは香港が絡まない取引で計上した利益(オフショア利益)に関しては免税になるという措置である。逆をいえば香港で法人税の納税義務が必ず発生するのは以下の条件に当てはまるケースである。

1.香港で事業をおこなっていること
2.事業の所得が香港での活動により発生していること
3.その所得の源泉が香港にあること

例えば商品を中国からアメリカへ輸出して利益を得るような事業を香港法人がおこなった場合、香港において納税義務が発生しないようにすることができる、ということになる。この適用を受けるには上記のオフショア申請を香港政府に受理してもらう必要がある。

原則として香港その業務のオペレーションを香港でおこなっているか否かとか、あるいは海外での拠点の有無は関係ないが、各取引についてその所得の源泉がどこにあるかということをひとつひとつ明らかにする必要がある。所得の源泉が香港内と香港外にまたがっている場合はそれを分別して認定を受ける必要があるのでかなりそれなりに手間のかかる作業となる。

オフショア申請をせずに普通に香港法人を通じた3国間取引をおこなえば当然法人税が発生する。あくまで個人的な意見になるが、海外在住の香港法人オーナーは仮にこのようなオフショア取引をおこなっていたとしてもオフショア申請はせずに法人税を納税した方が良い。申請にかかる様々な手間もそうだが、オフショアやタックスヘイブンに対する規制が強化されている昨今、自分が獲得したすべての所得に対して納税の事実を説明できるに越したことはないからだ。

香港法人とビザ取得

香港法人を設立し、ビザを取得してオーナーが香港で勤務するにはどうしたら良いか。

香港には「投資ビザ(Investment Visa)」というのがあり、通常はこれを申請することになる。これは原則として香港に貢献することのできるビジネスを運営する目的で起業するオーナーに対して発給されるものなので、ただ法人を作れば取得できるものではなく、その目的にかなう基準をクリアする必要がある。

具体的にはきちんとした事業計画と売上・利益の見込みが必要であり、事務所を設置や香港人スタッフの雇用も必須だ。また投資ビザを取得するオーナーは犯罪歴や入国拒否などの履歴がなく一定の学歴や職務の関する技能や経験・実績があること、充分な個人資産があり事業をおこなう上で必要な相当額の資本を会社に入れていることなどが慎重に審査される。許可が下りれば最初は2年の投資ビザが取得できる、その後3年毎に更新されるが更新の際にはきちんと計画通りに事業が運営されているかどうかの審査がある。

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