もちろん今までのように、これからもそれが使われずに時間が過ぎてゆけば良い。そう思う気持ちには一点のブレもない。しかし一方で”無邪気にそう期待し続けるのは無理があるかもしれない”とも思う。

2022年時点での核保有国はロシア、アメリカ、フランス、中国、イギリス、インド、パキスタン、北朝鮮、そして核保有を公言していないがほぼ確実に持っている見なされているイスラエルの9カ国。

核保有国と核弾頭数

「Status of World Nuclear Forces」によると、各国保有の核弾頭数は以下の通り。

ロシア:5,977
アメリカ:5,248
中国:350
フランス:290
イギリス:225
パキスタン:165
インド:160
イスラエル:90
北朝鮮:20
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合計:12,525発

実際核弾頭の数は国家機密なので正確にはわかるはずもないがおそらく当たらずとも遠からずのこの数字を基にするとおよそ9割をロシアとアメリカが保有していて、他の7カ国合計で約10%ということになる。

これら9カ国の核保有国以外にドイツ、イタリア、オランダ、ベルギーがNATOの核共有協定のもと、アメリカの核兵器を自国の領土に備蓄・配備している。いわゆる2022年の5月頃に故安倍元首相が日本にも導入すべく議論を開始しようとしていた「核シェアリング」だ。

ロシアの核使用

現在ウクライナに侵攻しているロシアのプーチン大統領が核兵器の使用をほのめかしており、世界に緊張が走っている。「我が国の領土保全が脅かされた場合、ロシアと国民を守るために使用可能なすべての兵器システムを必ず使う」と言っており、すべての兵器というのが核兵器を含んでいると解釈できる。ロシアは本来ウクライナの領土である東部のドンバス地方やクリミア半島を一方的に併合したと宣言しているのでウクライナ軍がそこを奪還しようと攻め込めばロシアの「領土保全が脅かされた」ということで核攻撃の理由になるかもしれないという危惧もある。何とも理不尽な話だが。

現時点において核兵器が人類最強の暴力であることは疑いのないところだろう。そして人類(ホモサピエンス)は歴史上ほとんどの問題を暴力で解決してきた。話し合いで解決することもあるが、お互いの要求が相容れず譲らなければ外交の最終手段と呼ばれる戦争で決着をつけるのだ。戦争はより強力な兵器を持っている方が有利なのは言うまでもない。

一撃で数十万人という殺戮が可能になる核兵器が攻撃に使われたのは過去に2回だけ。1945年8月6日広島と9日長崎でのことだ。それ以降は核保有国同士の戦闘にそれを使ったら双方の国のみならず人類滅亡につながる危険があるので「お互いにやめておきましょう」という抑止のために核兵器は存在してきた。

核拡散による核抑止の困難

すでに「相手も自分と同じように感じる、考えるはずだ」という期待だけが頼りの危うい状態だが、それでも核保有国が少なくてお互いの声が届きやすい状態であればまだ機能するかもしれない。実際、核保有国が最初の5カ国だったときはそのすべてが「今後この5カ国以外に核兵器保を拡散しない」というNPT(核拡散防止条約)を批准していてそこそこの意思疎通が取れた状態だった。ちなみにこの5カ国は国連安保理の常任理事国であり、奇しくも最強の暴力を持った国が世界のリーダー的存在になる論理がすんなり成り立ってしまうのである。

もちろんそれを良しとしない国もある。核保有国である中国、そしてパキスタンとの間に紛争を抱えるインドはNPTを批准せずに独自に核開発を進めて6番目の核保有国となり、それが最大の脅威であるはずのパキスタンも程なく核兵器開発に成功する。そして北朝鮮はNPTに加盟しながら密かに核兵器開発を行い、おそらく成功の目処が立った2003年にNPTを脱退。2006年には核実験を行い核保有国となった。そして今年2022年に入り、国連常任理事国でありNPTも批准しているロシアがウクライナ戦線において核兵器の使用をほのめかしている。

もし仮に今回本当にロシアが例え無人地帯に近い場所でさえも核攻撃なり核実験なりをおこなうことになればその被害の大小とは別に大きなタガが外れることになるだろう。「相手に使わせないために持っている」という核保有国同士の抑止の前提が破られることも大きいが、さらに懸念されるのは一度破られた強固な前提は2回目からはもっと容易に破られるのが想定されることだ。そうなると毎週のように弾道ミサイルを発射している国や近海の島を取り返そうと軍事的圧力を強めている国の危険度メーターは一気に振り切れることになる。不本意ではあるが危険な国は重視せざるを得ないし、配慮もしなければならなくなるだろう。

我々が”どうかそんなことにはならないでほしい”と心配しながら見ているロシアの核兵器使用動向を隣国はもしかしたら逆に期待しながら待っているかもしれないという視点は忘れてはならない。

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