一帯一路構想は中国の西安を起点に陸路でユーラシア大陸を横断し、ウルムチ、イスタンブール、モスクワ、ヴェニスに至る交易ルート(一帯)と、福州を起点に海路で南シナ海からインド洋を横切りケニアのナイロビを経由して紅海から地中海を通ってヴェニスに至る交易ルート(一路)を整備する計画。

陸路は古のシルクロードを思い起こさせる交易路、海路は新たな「21世紀の海洋シルクロード」というコンセプトの下、周辺諸国・地域の貿易と資金移動を促進するための鉄道や港などのインフラ整備を中国が提唱、主導して行っている経済圏構想である。

中国の一帯一路構想

この一帯一路構想の周辺国には財政的に恵まれていない国が多く存在するが、そうした諸国に中国はインフラの資金を貸し付けて開発を推進させている。インフラが整えば経済的には良い効果があるのでこぞって中国にお金を借りて開発計画を実行することになる。こうした背景で行われる開発は当然のように中国の企業が請け負い、中国製の材料を使って進められることになるので中国の経済が潤うことにもなる。そして開発途上国では完成した最先端のインフラを運営するノウハウも不足しているのでその管理やメインテナンスにも中国の会社が入る余地がある。

また最近問題になっているのが国のキャパシティを超えて返済できなくなった債務の代わりにその国の港などのインフラを中国が租借して、自由に使えるようにする「債務の罠」この一帯一路構想に付随して複数発生している。先ごろ破産宣言をしたスリランカの港であるハンバントタ港を中国が99年間租借していたといるニュースが目新しいが他にもジブチのドラレ港やパキスタンのグワダル港など中国の影響下にある港は増えている。

更には一帯一路周辺の交易を通じてデジタル人民元を普及させ、現在の基軸通貨であるドルに対抗する通貨に育て上げる意図を持っているという見方もある。「(デジタル人民元の国際的普及は)最優先事項ではない」と中国政府はトーンを抑えているが、充分にそれを想定していると考える方が合理的だろう。

中国のアフリカ進出

中国はアフリカ諸国への投資・開発援助も積極的におこなっていることもよく知られている。2021年まで12年連続でアフリカの最大の貿易相手国であり、中国とアフリカ諸国の関係強化を目的として3年に一度開催される中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)には50カ国以上のアフリカ諸国の首脳が集まる。日本もアフリカ開発会議(TICAD)という同様の枠組みを主催しているがFOMACに比べて参加国も少なく、参加者も首脳ではなくナンバー2以下の立場の人が多いようだ。

「海のシルクロード」がケニアのナイロビからアフリカの角と呼ばれるソマリア・エチオビア、紅海からエジプトのスエズ運河を通るのでこのアフリカにも一帯一路と並行したインフラ開発に対する投資・融資もおこなわれている。もっともアフリカに対しては旧植民地宗主国のフランスやイギリスをはじめとして、オランダやアメリカなども金額的には大きな投資をしているが、独裁体制や人権擁護などの条件に厳しい西側諸国に対して、その部分をあまり問題にしない中国の方がよりアフリカに馴染みやすいのかもしれない。

実際一国が一票の投票権を持つ国連で193加盟国のうち50数カ国を占めるアフリカ諸国が中国の味方に付くことも多いという。また中国は独自で宇宙ステーションを保有したり、アメリカの続いて火星探査にも成功、次いで人類で初めて月の裏側への着陸を成功させるなど宇宙開発でも世界のトップランナーに躍り出ようとしている。

国家ヴィジョンの有無

我々日本人(特に40代以降で中国の開発途上時代を知っている世代)ははこうしたことを聞くとどこか面白くない気持ちになるものだ。そして自然にネガティブな要素を探してしまう。

「実際は一帯一路の各地のインフラ整備は遅々として進まずあちこちで頓挫している」

「アフリカ諸国の幹部はともかく庶民からは反感をかっている」

「個人の権利を制限しながらいくら発展してもオレは認めないね!」

というところだろうか。確かに国内での少数民族の人権抑圧や「債務の罠」による他国領土の強制利用、政府主導で民間IT企業から情報を抜く等々、我々からすれば眉を顰めたくなるような事柄は多い。

しかしそうした良し悪しを排除して考えれば「○○年後にこうなっていたい」というビジョンのもと中国が行動を起こしているというのは感じる。翻って、我が日本はどうだろうか?正直な話、残念ながら今の日本に同様のビジョンを感じることはできない。

西側諸国との協調を強化して自由と民主主義を広げることに努めたり、民族存続の問題でもある少子高齢化を解決したりと「○○年後にこうしたい、こうなっていたい」として掲げることのできる問題はいくらでもあるはず。

そしてで日本にそれができないはずは決してない。

かつては日本も明治政府が殖産興業や富国強兵というビジョンを掲げて鎖国を解いてから40年後には列強の一つに数えられるような急成長を遂げたし、資源の乏しい自国が影響力を持つために時には謀略も駆使して満蒙への進出や大東亜共栄圏という構想を進めたこともあるのだから。もちろんこれも良し悪しは別の話だが。。

日本を買えない理由のひとつはそういうところにもあるように思えてならない。

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