ブラック企業という言葉が巷でよく聞かれるようになったのはここ10年ほどだろうか?

Wikipediaには、
「新興産業において若者を大量に採用し、過重労働・違法労働・パワハラによって使いつぶし、次々と離職に追い込む成長大企業」
「従業員の人権を踏みにじるような全ての行為を認識しつつも適切な対応をせずに放置している企業」
などがブラック企業の定義として載っていた。


ブラック企業

具体的にはパワハラ、セクハラや長時間労働、サービス残業などが横行している状態が放置されている会社というふうに理解して間違いないだろう。僕も以前サラリーマンとして2つの会社で勤務していたことがある。1つは全社員が100名程度の非上場オーナー企業、そしてもうひとつは社員約1,000人、売上約1,000億円の東証一部上場企業だった。前者に3年、後者に9年の合計12年を会社員として過ごしたことになる。

サラリーマン生活に終止符を打って自分で仕事をはじめたのは今から14年前の2005年なので当時まだブラック企業という言葉はなかったはずだが、会社員時代は基本的に平均すると12時間以上は会社にいた。上司の鉄拳制裁もあったし、女性社員が何人も入社してはすぐに辞めるのが手癖の悪いあの幹部のせいだ、と誰もが知っていたこともあった。それほど悲壮感もなかったし、どの会社も似たり寄ったりという認識もあった。

それは確かな感覚なのだが「ブラック企業?昔は普通だったし、誰もわざわざ騒がなかったよ」などとしたり顔で言うのが本稿の目的ではない。若いときの貴重な時間をそんな典型的な日本の会社員らしい働き方をしていたことが今や残念で仕方がないのだ。

協調性の蹉跌

一方で企業に所属する限りにおいて、他の社員がすべて定時を過ぎても当たり前のようにオフィスに残って仕事を続けているのに自分一人さっさと帰るというのは至難の業だったのは間違いない。実際、僕が新卒で入社して仕事を引き継いだ前任者は私生活を大事にする人で自分の趣味のために週に2回ぐらいは定時で帰っていた。しかもその部署は毎日夜中まで残業していることで社内でも有名なところだった。

中東・ヨーロッパ向けの貿易が主な業務で相手の退勤時間までこちらも動き続けていたからだ。(だったら朝も遅く出勤するのが合理的だがそうはならないのだ)そんな働き方をしていた前任者の先輩は会社が六本木に持っていたショールーム(そこには男がやる仕事などほとんどない)に異動になり、その後ほどなくして会社を辞めた。他の人と同調できない、同じような時間軸で働けないと会社を去らなければならない、というのが社会人になって数ヶ月目で目の当たりにした現実である。すぐに辞めるつもりのなかった僕はそうして当然のように最初から残業漬けのサラリーマン生活に慣れていった。

長時間労働が生む非効率

転職して中国や香港で勤務していたときも基本的な残業体質は変わらなかった。というより、そのときにはどっぷり日本企業的労働の流儀に浸かっており、残業もそこそこに退勤する現地スタッフを苦々しい気持ちで見ていた。

「僕は仕事をこなすのが速いから給料を上げてもらって当然じゃないですか!」
「人それぞれ働くスタイルが違うのだから理解してほしい」

と訴える中国人・香港人に対して”そんなこと言ったって実際どんだけの時間働いているんだよ”と口に出さずとも思っていたのをはっきりと憶えている。そのときの自分は頭がおかしかったのか、と思えるぐらい大きな間違いである。

そして今僕に残るのは仮にこれまで会社員時代に仕事に費やした時間が30%ぐらい少なかったとしてもおそらく得られた結果は同じだろうという感覚である。いやむしろ必ず9時から18時までの時間に仕事を終わらせなければならない、それ以降は一切仕事をしてはいけないというのが条件だったらもっと良い結果が得られたかもしれないとさえ思う。ある量の仕事があり、ある量の時間をかけることが必須になっていればその長い時間を持て余さないように仕事のペース調整してしまう。多分、人間は自然にそうしてしまう。

残業をするのが当然、しない人が白い目で見られる。この日本の企業における特殊な習慣が生んだ無駄は途方もない規模になるはずだ。今なおブラック企業という言葉が横行しているということは日本人の多くは今だに長時間労働の中にある、他の国の人より多くの時間を仕事に費やしているはずだ。

この30年間、GDPベースで1位の米国は約4倍、2位の中国は55倍、4位のドイツも約3倍になった、にもかかわらず3位の日本はわずか1.6倍の成長でとどまっている。ある程度貨幣価値の違いなどを差し引いても日本の経済成長の鈍化は明らかだ。こんなに勤務時間が長いのに。。翻って、米国人や中国人、ドイツ人の勤務時間が日本ほど長いというイメージはない。

もしかしたら本当にどうしようもなく忙しく、ともすると過労死を生むような仕事も当然あるだろう。仮にそういう仕事であれば必ずしもれには当てはまらないかもしれない、ということは申し添えておく。

しかしおそらく大方は効果を産まない無駄な勤務時間が今も膨大に費やされているはずだ。この労働生産性の低さは日本の将来に影を落とす要素であることは間違いないのではないだろうか。

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