「M&A」はMerger(合併)& Acquisition(買収)の略で企業買収のこと。

会社はその保有権である株式を取得(譲渡)することにより購入(売却)することができる。M&Aで会社を買った者は資産、経営権、事業ノウハウ、従業員など、会社が持っているすべてを手に入れることができ、その会社を引き続き運営してゆくことも、精算して会社の資産を現金化することも可能になる。

不動産M&Aとは

「不動産M&A」は法人で保有している不動産資産を売却する方法のひとつである。法人が保有不動産を売却する際、その物件を普通に買い手に譲渡する方法と会社自体を売却する方法がある。不動産保有会社を売却する不動産M&Aには税制的に有利な面がある。法人が保有している不動産を売却する際、その不動産が含み益を抱えていれば利益に対して約30%の法人税がかかる他、売却後に会社を精算して株主に配当する場合は最高55%の個人所得税(+住民税)がかかる。また保有物件がオフィスビルなどの商業物件の場合はさらに8%の消費税も課税されることになる。

一方、不動産を保有している法人ごと売却する、いわゆるM&Aをおこなうと不動産ではなく会社の株式を売却することになる。日本では株式の譲渡益(キャピタルゲイン)に対して一律20%のキャピタルゲイン税を支払えば良いことになっている。不動産M&Aによる節税はこの差を利用するということだ。賃貸不動産保有のためにオーナーが100%株主の法人を設立して物件を保有することが多くある。保有物件を売却して会社を清算し、すべてを個人資産に移行するケースと資産保有会社を売却するケースを比較してみる。

例えば5億円の含み益がある住宅用マンションを売却した場合それぞれの納税額の概算は以下の通り。

1.保有不動産を売却して法人を清算した場合

売却益5億円
法人税(30%)1億5,000万円
個人所得税・住民税(3億5,000万円の55%)1億9,250万円
オーナーの手取り額1億5,750万円

 

2.不動産保有会社を売却した場合

※実際の会社価値の評価は複雑だがここでは話を単純化するため保有不動産と等価とする。

売却益5億円
キャピタルゲイン税(20%)1億円
オーナーの手取り額4億円

 

不動産M&Aのメリット・デメリット

つまり、4億円-1億5,750万円=2億4,250万円が売り手側が享受できる不動産M&Aのメリットである。一方買い手側は不動産保有企業の株式を取得することになるので通常の不動産取引の際に発生する不動産取得税、登録免許税がかからない。また不動産売買契約書は印紙税の課税文書だが株式売買契約書は非課税文書のため印紙税もかからない。

不動産取得税は固定資産税路線価の4%、登録免許税は固定資産課税台帳の本年度価格の1000分の20、印紙税は10億円〜50億円の不動産取引で40万円かかるのでこれは買い手側にとっても大きなメリットとなる。また、売り手が享受できる税制的メリットをシェアする形で値引き交渉なども可能になるだろう。

もちろん良いことばかりではない。不動産売買は頻繁に行われている取引なので買い手を探すのも比較的容易で手続きもしやすいが企業買収は一般的ではないためある程度専門的なM&Aアドバイザーなどのサポートが必要になる。そこには比較的高額なコンサルティング料がかかってくることを想定しなければならない。

それは買い手側とっても同じことである。法人には簿外債務など表からは見えにくい負債が隠れていることもあり、買収の際には専門家の手によって充分に精査する必要がある。

しかし売り手にとってはやはり節税面で不動産M&Aのメリットの方が勝るだろう。買い手にとってはコストと手間の比較考量、そして売り手との交渉で狙った不動産が市場価格より割安に取得できればメリットは大きい。税収の減る政府はこの取引をあまり歓迎しないだろうが。。

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