中国政府によって作られた香港国家安全維持法が施行されてから一週間が過ぎた。6月30日には香港の民主化団体デモシストの解散が発表されたが、それでも翌7月1日の香港返還記念日には数千人のデモが実行され300名以上の逮捕者(国家安全維持法違反容疑は10名)を出した。

これに対し多くの国で中国に対する批判が繰り広げられており、とくにアメリカではこれまで一国二制度下の香港に与えていた優遇措置を撤廃するという動きを見せている。すでにアメリカから香港への軍民両用の技術に関する輸出を停止するということを決めており、香港の自治の侵害に関わった中国共産党員や金融機関への制裁を可能にする「香港自治法案」を議会で可決、現在トランプ大統領の署名待ちの状態である。

香港ドルは持っていても大丈夫か?

さて、この流れに関連して我々への質問や問い合せが増えているものの中に、「香港ドルを持っているのですが大丈夫でしょうか?」というのがある。

香港ドルのドルペッグ制

香港ドルを理解するうえでもっとも重要なキーワードのひとつに、「ドルペッグ制」がある。ドルペッグ制は自国の通貨を一定の為替レートで米ドルに連動させる通貨政策である。香港ドルの場合はUSD1=HKD7.75〜7.85という非常に狭い変動範囲で米ドルに連動している。ドルペッグ制のメリットは米ドルとの為替レートを固定させることによって同じ交換比率で世界でもっとも広く通用している通貨に両替できるという安心感が生まれることだろう。いつでも基軸通貨の米ドルと同じレートで交換できるのなら海外からでも安心してその国・地域でビジネスや金融商品に投資することができるので経済には良い影響がある。

一方でドルペッグ制を採用している国・地域の中央銀行や通貨当局は制度を運営するために日々大量の香港ドルと米ドルの売買をしている。通常通貨の為替レートは発行国の経済状態や金融政策他の状況によりランダムに変動する。経済的に好調な国の通貨には信用が生まれその通貨を持ちたいという人が増え、逆に経済状態が良くない国の通貨は手放したくなるからだ。また金利の変動なども為替レートに大きな影響を与える。米ドルをはじめとして日本円やユーロ、ポンドなどはそうした自然な為替変動に身を任せている。

しかし時として急激な為替の変動が健全な経済活動を阻害する可能性のある場合は通貨当局が大きな規模で自国通貨買いや自国通貨買いをおこなうこともある。そうすることによりいわば力ずくで理想的な為替レートに持ってゆき、経済の安定を図るのだ。これを為替介入と言う。香港ドルをはじめ他の通貨に連動させる政策を採っているということは設定したレートに収まるように常にこの為替介入をおこなっているということなのである。

香港の場合は実質的な中央銀行である香港金融管理局(HKMA)がこの役割を担っている。そこで心配されているのがアメリカが今回の国家安全維持法への対抗措置として米ドルと香港ドルの自由な兌換を制限するのではないかということだ。もしそのようなことになれば、HKMAは米ドルの売買ができなくなり、ドルペッグ制を継続できなるなる可能性がある。それは香港ドルの信用毀損につながり、香港ドルの価値が下落するのではないかということである。

米ドル取引停止可能性と香港ドルの現状

そんな報道を耳にすれば香港ドルを持っている人が不安になるのは至極当然の成り行きだ。正直将来何が起こるかを断言することはできないが、少し落ち着ける理由を2つ挙げてみたい。

一つは香港がすでに充分な外貨準備高があるということ。2020年5月末時点で香港には4,423億米ドルの米ドルがあり、これは現在発行済の香港ドルの約2倍に当たる。つまり今流通している香港ドルをすべて米ドルに替えてもまだ半分が残るぐらいに潤沢なドルが香港内にはあるということだ。これはカレンシーボード制と呼ばれる制度のもと、香港ドル紙幣発行の際に必ず相当額の米ドルを通貨当局に預託させていたということに起因している。また万一の場合は3兆ドル以上の外貨準備高を持つ中国から米ドルを融通してもらうこともできる。

2つ目は金融機関をはじめとしておびただしい数の米国企業が香港に進出し、ビジネスをおこなっていることだ。仮にアメリカ政府が米ドルと香港ドルの兌換を禁止し、その報復として通貨当局がそれらの企業が持っている香港ドルの外貨準備との交換を拒否すれば莫大な損失を被ってしまう。つまり自分たちに跳ね返ってくることになる。実際アメリカ政府としても簡単に決断できることではないはずだ。

もちろんそれでも2年ぐらい前の何もなかった時期に比べると確かに不安定要素は増えている。リスクはまだそんなに大きくはないが以前よりは高まっているという形だ。現在香港に保有している資産や香港ドルの預金を少しでもリスクから遠ざけたい場合はもちろんそれに見合った商品も存在する。


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