年が明けた頃はコロナパンデミックの終盤、まだ外出時にはマスクが必須だった。今となっては遠い昔のことにように思える。やがてロシアによるウクライナ侵攻開始から一年以上が過ぎ、さらにイスラエルとハマスの紛争もはじまった。アメリカをはじめとする西側陣営はサポートや支援の負担は大きい、万一もう一つ別の場所で大規模な紛争が起きたらそこに関わる余力があるのかというのは我々にとっても大きな懸念材料だ。

世間を賑わせたスキャンダルはジャニー、ビッグモーター、日大、政治資金パーティ、ここに来て松ちゃんの名前も。当事者にとっては深刻な問題だが全体にとってはそれほどの重要事ではないにも関わらず相変わらず、関心を引きつけるこうしたセンセーショナルなニュースは本当に大事な問題(例えば増税とか)から今年も大衆の目をよくそらした。

2023年の出来事

大谷翔平、井上尚弥、藤井八冠等々、圧倒的な実力を誇る日本の若者の活躍は自分が生きている間にリアルタイムで見れてラッキーと思えるほど。日本は少子化で若年層が減っているにも関わらず、一握りのトップに焦点を絞ると、より人数の多かった上の世代よりずっと優秀な人材が出てきているのは少しだけでも明るい気持ちになれる。あっという間に時間は過ぎて、2023年もあと数日。

日銀総裁の交代と金融政策

金融面では約10年ぶりに日銀総裁の交代があった。黒田東彦氏から植田和男氏へのバトンタッチである。現在植田総裁率いる日銀はマイナス金利解消(利上げ)の機会を伺っている。しかしそれには確かな賃金上昇を確認できることが必須としているようだ。これはどういうことだろうか?

2013年の就任時に「黒田バズーカ」と呼ばれる量的・質的緩和措置でアベノミクスと相まって、当時の超円高(1ドル100円前後)の解消と株価(当時日経平均株価12,000円台)の上昇基調を作った黒田日銀総裁の大きな功績だ。一方で目指していた賃金上昇を伴う安定的なインフレ基調を作り出すことはできなかった。本来、黒田日銀は就任後2年で2%の物価上昇率を目指していた。当初の「黒田バズーカ」はそれに見合うだけのインパクトはあったと思う。

しかし2014年(5%→8%)と2019年(8%→10%)には消費に強烈な冷水を浴びせる消費税率の引き上げがあった。財務省出身だからか、黒田総裁も消費税を支持していた。アクセルとブレーキを同時に踏むような姿勢では当然どっちつかずの経過をたどることとなり、その後もマイナス金利の導入(2016年)で短期金利の調整余地がなくなると、国債の買い入れにより長期金利を操作するイールドカーブ・コントロールを採用。しかし、ついに10年の任期をもってしても、良質のインフレ状態を作ることができなかった。

コストプッシュ型のインフレ

ちなみに数字だけを見れば消費者物価指数は2%を超える値を出してはいるが、賃金上昇を伴わない意義の薄い物価上昇だった。なぜならゼロ金利や金融緩和を続ける日本を尻目に、コロナ後にいち早く景気回復をした欧米各国が一斉に利上げをおこなったために急激に円安が進み、その分輸入品価格が為替差で相対的に高くなったり、ポストコロナの世界的経済回復やウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇があったりで物価が上がっただけで景気にはむしろマイナス要素満載のインフレだからだ。収入が増えないまま物価だけが上昇するということは、当然生活を圧迫するわけで、やがて消費は細ってゆく。つまりいつでもデフレに戻る。これをコストプッシュ型のインフレと言う。

デマンドプル型のインフレ

最低でも物価が上がった以上に収入が増えてはじめて皆どんどんモノを買って、遊びに行って、という気持ちになる。そうして消費が増えれば、企業の収益も増えて経営状況も改善し、従業員の給与も増やすことができる。給料の増えた人たちがまたどんどん消費をするから競争原理で高い価格で売ることが可能になり、企業収益は増える・・デマンドプル型の良質のインフレだ。

植田日銀がそれを目指していることは間違いないだろう。しかし他の国は2022年から2年間続いた利上げラリーで、ようやくラーメン一杯が数千円に達したようなインフレを沈静化させ、来年は利下げ局面に入ることが予想されているところで、逆に利上げを検討している。周回遅れで走っているのか、あるいはもはや逆走しているのか。。つくづく神秘的な国であると感じる年末である。

 

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