東京オリンピックもあと残すところ2日となった。この原稿を書いている時点で日本の選手団はメダル獲得数で金メダル24個(3位)、メダル合計で51個という大活躍。

ネットを通じてどんな競技の決勝も見れるようになっているので、個人的にも日本人のメダル獲得の瞬間を見逃すまいと競技スケジュールに合わせて仕事する日々が続いている。正直、政治的にも経済的にも精彩を欠く日本において、アメリカのMLBで歴史的な活躍をしている大谷選手やゴルフのメジャータイトルを獲得した渋野、松山、笹生の各選手、かつては夢の夢だったテニスのグランドスラムをもう3回も勝っている大坂選手などプロスポーツの世界で自分の世代では想像もできなかった成績に驚いていた昨今だったが、アマチュアスポーツ中心のオリンピックでも同様のパフォーマンスを見せる若い世代の日本人に感嘆する毎日だ。

2020東京オリンピックの光と影

一方で非常に考えさせられるオリンピックであることもまた事実である。昨年年初に発生した新型コロナウィルスのパンデミックで本来の予定から一年延期されたが、その間も第3波、第4波という断続的な感染爆発があり、オリンピックの中止や再延期を求める人たちも多い中当初の延期予定どおりのスケジュールにしたがって無観客での開催が踏み切られた。開催に反対してデモをおこなう人やメディアを通じて反対を唱える人もたくさんいたがその意見や願いは届かなかったことになる。

海外からの観客の受け入れ、そして最終的に無観客での開催となったので見込んでいた入場料収入や訪問客による宿泊や飲食や買い物よる売上など波及する経済効果の大部分が失われてしまった。東京オリンピックを開催するために当初東京都が算出した予測は8,123億円だったが、その後支出は膨れ上がり日本政府監査当局の計算によると総支出は2兆1,955億円(公式予算は1兆6,440億円)と3倍近くに達した。新型コロナ流行という予測不能なリスクが実現してしまったことに起因する結果論ではあるがリターンに見合わない投資であったことは否めない。

7,700億円をかけた競技場やアリーナの建設・改修は公共事業としての建設業界及び周辺産業を通じて経済効果があることを信じたいが、オリンピックイヤーには年間を通じて4,000万人の観光客があるという予測が出ていてそれに合わせて準備をしていた業界は完全に肩透かしを食った状態。期待だけさせられて結果なにもなし(準備のために投資をしていた人はマイナス)というのは経済的ダメージはもちろん精神的苦痛は計り知れない。

オリンピック開催時の新型コロナ感染

一方で新型コロナの感染者はオリンピック開催後大幅に増加。それまで最悪のときでも7,000人台に収まっていた1日の新規感染者数はオリンピック開催後急拡大し、現時点では一日あたり15,000人を超えており、重傷者数も2ヶ月ぶりに1,000人の大台を突破してきている。これにより病床数が逼迫、政府は入院は重傷者あるいは医師が必要とした人に限り、それ以外の症状の人、無症状の人は自宅療養とすることを決定した。

人口あたりの病床数が世界一を誇る日本でなぜこんなことになるのかという点はあらためて議論してもらいたいが、いずれにしても今日本人が直面する大きな問題である。この点では、少なくともリスクを予見してオリンピック開催に反対していた人たちは正しかったことになる。「だからあれだけ言ったのに!」と怒り心頭だろう。

誰にも止められなくなるメカニズム

ではなぜそれでもオリパラは決行されたのか?もう誰にも止められなかったというのが実情のようである。オリンピックには複数の利害関係者がいて、それが複雑に絡み合いあちらを立てればこちらが立たず、最終的に開催に踏み切ることが妥協点だった。

利害関係者はざっくりと1.開催国及び自治体、2.IOC、3.スポンサー、4.選手、5.開催国の国民。

1.開催国及び自治体は国威発揚や地域経済の活性化のために開催地として立候補した上で選ばれた責任があり、この特殊な状況だからと一部国民が反対してもなかなか声高に中止・延期を唱えるのは難しいだろう。

2.IOCはその収益の大きな部分を放映権料(東京オリンピックの放映権料は4,600億円でIOCの売上の4割程度を占めるという)やスポンサー収入に頼っており中止は避けたい。

3.スポンサーはまたとない宣伝・広告の機会として莫大な予算をつぎ込んでいるのでこちらも中止にはなってほしくないだろう。

4.選手はほとんどの人がオリンピックのために自分の人生の中の貴重な時間とエネルギーの大きな部分を訓練に費やしてきたはず、また選手生命や協力してくれた人たちに結果で報いたい気持ちもあり、中止など想像もしたくないところだろう。

5.開催国の国民は通常であればオリパラは多くの人が賛成するようなイベントであるが、今回のパンデミックという突発的なリスクが発生してしまったがために反対する人の割合が増えた。

もちろん実際はこれだけでは語れないほど細かく利害が入り組んでいるはずですが、要するに構図として反対派がごくごく少数ということになる。開催しないことの損失に比べれば開催することによるリスクはまだ小さい、、

文字にするのもはばかられる恐ろしい判断だが事実そういうことになる。結果として正確な危機感をいだいていた反対派の人たちの声は黙殺された形になった。

ときとして戦争が似たような形で進んでゆくのを連想するのは行き過ぎだろうか?ちなみに今回の東京オリンピックがすばらしいイベントに違いないのは今一度申し添えておきたいが。

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