昨年2021年はビットコインをはじめとする暗号通貨が高騰した。主な原因は新型コロナ流行による景気下支えのため各国がおこなった緩和政策で溢れた資金が金融商品市場に流れて株価や暗号資産の価格を押し上げたことである。

「億り人」と呼ばれる暗号通貨で多額の利益を得る人が続出した2017年の暗号通貨バブル時の価格を大幅に上回る上昇を記録。例えばビットコインは2017年末にBTC1=USD20,000に達し、その水準は当時驚きをもって認識された最高値であった。(そして翌2018年には3千ドルまで下落した)しかし2021年11月にはビットコインは7万ドル、イーサリアムは5千ドル近くまで上昇したのだ。

暗号通貨に関する税制

ところが年末に暗号通貨は急落し、2022年2月22日現在ビットコインはUSD37,000、イーサリアムはUSD2,500付近を推移している。この動きは日本での納税という観点でいささか罪作りである。暗号通貨取引による利益には所得税がかかるが、税目は雑所得。

雑所得は定義に従うと「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得」となる。この雑所得は他の雑所得を合算してその金額に応じて累進の所得税がかかる総合課税だ。この総合課税と逆の概念が分離課税で、例えば株式の売買損益(キャピタルゲイン・キャピタルロス)の税目は譲渡所得となり他の所得とは切り離され独立して計算される分離課税である。株式取引ではときには利益が出たり、時には損失が出たりするが年間を通じてプラスマイナスを計算して最終的な損益に対して20.315%の税率がかかることになる。

暗号通貨は取引所を通じた売買により利益を狙うという意味において株式の売買と同じようなイメージだがこうして税目が違うため暗号通貨と株式の損益は通算できないことになっている。つまり暗号通貨取引の利益と損失は雑所得内での通算しかできない。他の雑所得と言えば、例えば公的年金による所得や原稿料、講演料による収入などいわゆる「利益」しかないものが多く、損益通算の損失の方はやはり暗号通貨取引による損失ぐらいしかないのが現実だ。

暗号通貨損益の雑所得計算

雑所得は毎年1月1日から12月31日までの所得を合算して翌3月に確定申告することになる。仮に2020年10月頃にBTC1=USD10,000だったビットコインを10枚買ったとする。それが一年後の2021年11月頃にはUSD60,000ぐらいのときに売却して現金化する。USD100,000の元金で投資したものがUSD600,000で売却できたことになり利益はUSD500,000、投資としては大成功である。

4,000万円以上の場合、所得税は国税と住民税の合計で55%(4,796,000円の控除額含む)かかるのでざっくりと利益の半分が納税額となる。かなりの金額になるがこれは致し方ない。「それでも3,000万円近く儲かったのだから、、」と気持ちの折り合いをつけることになる。そして現状3万ドル台にまで下がったビットコインの価格を見ればそれで溜飲を下げることも可能だろう。

年末を挟んだ乱高下の危険性

ところが暴騰を続けているときはこう考えてしまうこともあるだろう。”単価が何百万円になってしまったビットコインはこれから2倍、3倍になることは考えにくいが、単価の低い暗号通貨ならそうなる可能性はあるのではないか?”つまり700万円のビットコインが1,400万円や2,100万円になる気はしないが、50万円のイーサリアムが100万円や150万円になることは充分あり得るのではないか、と考えるのは投資をする人にはごく普通の思考だ。例えば上記と同じ2021年11月頃、単価USD60,000だった10ビットコインをすべて単価USD4,500のイーサリアムに変換する。取引所では暗号通貨同士の交換は実に手軽に一瞬で取引が完了する。

ところがこれが大きな落とし穴にもなる。感覚的には暗号通貨から暗号通貨に交換しただけなのだが、税法上はビットコインを一旦現金化して、改めてイーサリアムを購入したとみなされる。一旦利確したことになりやはりUSD500,000が課税対象となるのだ。これはしっかり認識しておかねばならない。

仮にこのとき入手したイーサリアムを越年で保有していれば価値がかなり下落して、2022年2月現在はUSD2,500ぐらいで推移している。総価値はUSD330,000ぐらいだろうか。納税額はUSD250,000ぐらいになるので、これを現金で用意できなければそのイーサリアムを売却して資金を作らなければならないということも考えられる。目論見が外れて断腸の思いでそれを処分、納税をして手元に残ったUSD80,000は初期投資額のUSD100,000を下回ってしまう。。

罪作りなのは高騰から急落が年度をまたいで発生したことだ。これが年度の半ばで起こったのであれば程々のところでイーサアリアムを損切りしてビットコインの利益とイーサリアムの損失を合算して、利益及び納税額を圧縮して下落基調の中でも資金を手元に残すことは可能だ。年度をまたいだ損益通算ができない、つまり節税が難しいということも認識しながら行わなければならない。日本における暗号通貨取引は税制面で細心の注意が必要なのである。

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