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2021年11月3日のFOMC(連邦公開市場委員会)にて今月からテーパリングを実施することが発表された。

FOMCはアメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和や政策金利などの金融政策について話し合う会議で年8回開催される。日本では日銀による金融政策決定会合が同じ役割だ。ただ世界の基軸通貨である米ドルの発行を司るFRBの金融政策の行方が世界経済に与えるインパクトは段違いに大きい。

FOMCテーパリングの実施を発表

そのFOMCで今回決定されたテーパリングは「資産買い入れの縮小による量的緩和政策の段階的終了」という意味だ。アメリカは新型コロナの世界的蔓延が明らかになった2020年3月、政策金利を0.00〜0.25%といういわゆるゼロ金利に引き下げると同時にFRBが米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を無制限に買い入れることによる量的緩和策を実施した。もちろん当時のロックダウンや移動の制限による景気の急速な悪化に対応するためだ。

通常の金融政策と危機時の金融政策

通常不景気が心配されるときはまず、中央銀行は金利を引き下げて消費を刺激する。金利が安ければ企業は融資を利用して設備投資を積極的におこなったり、一般国民も低金利により預金しておく動機が弱まり銀行から出金して株式などのリスク資産に投資したり、よく買い物をしたりするようになる。そのうち物価が上昇する(現金価値が下落する)のでますます現金を貯めておくのが馬鹿らしくなり投資と消費は加速する。しかし物価の上昇が行き過ぎて高インフレ状態になると、所得の低い人の生活が苦しくなったりなど別の不都合も出てくるので適度なところで金利を引き上げて逆方向に舵取りをする。通常はそれコントロールが効く。

ところが金利の調整だけでは間に合わないほどの規模で景気に悪影響を及ぼす出来事が発生することがある。2008年のリーマンショック・世界金融危機、そして今回2020年に発生したの新型コロナパンデミック。

金利は原則ゼロ以下には下げられないという限界点があるので、ゼロ金利にしても不景気から脱出できない場合は中央銀行が量的緩和策として新規にお金を発行して、金融市場から債券やETFなどの資産を購入する形でそれを市中の放出するのだ。そうしてマネーの量が増えるにつれ、その価値は希薄化してインフレが生じ、人々が投資や消費に積極的になるサイクルを作り出すことができる。その量的緩和策を終了する段取りが今回決定されたテーパリングである。

テーパリングの本来の意味は「漸減する、先細りにする」というTaperの動名詞。腰回りから裾にかけて細くなってゆくテーパードパンツのように資金供給を絞ってゆくイメージだ。だんだんと減らしてゆくのは市場に急激なショックを与えないため。アメリカの量的緩和が実施された頃を起点にしてNYダウは約80%、ナスダックやS&P500は2倍以上、同様に各国の株価指数も軒並み大幅上昇、当時20ドル台だったWTI原油は現在80ドルに達し、ビットコインは10倍以上になった。これはもちろん量的緩和により放出された大量のお金が金融市場に流れたからであり、それをやめるということは当然逆の流れが起こることを想定しなければならない。

金融緩和策の出口

量的緩和策を行ったから暴騰、やめたら暴落ということでは中央銀行としてあまりにお粗末。なのでまるで高価な壺を運ぶように慎重にゆっくりと進めてゆく必要があるのだ。実はFRBは数ヶ月前から「そろそろテーパリングをやりますよぉ」というメッセージをことある度に発してきた。実際に今月からテーパリングを行う発表をしたのに株価はそれほど動かなかった(というか、むしろ上昇した)慎重な情報発信が功を奏して投資家に心の準備ができていたために価格が充分にこのニュースを織り込んでいたからだ。微妙な舵取りは現時点では成功していると言って良いだろう。

とは言え、減らし始めた資金供給は継続して縮小してゆきやがては資産の買い入れをやめる、そしてその資産を売却してゆく段階を踏む。その次はゼロになった金利を再び金融政策が実行可能な位置まで戻してゆく作業が予定されている。それでようやく通常の状態に戻る。その間にまた世界経済を揺るがすようなことが事件が起こらないことを中央銀行は祈るばかりだろう。

2008年の世界金融危機のときはQEと呼ばれた大規模な量的緩和が終了して利上げに至ったのは2016年だった。今回はそれよりずっと短いスパンでの回復が見込まれている。ちなみに前回アメリカは利上げから3年後の2019年に再び利下げを開始している。当時トランプ前大統領がさかんに利下げと量的緩和を実行するようにパウエルFRB議長に圧力をかけていたことが思い出される。今から考えるとそれほど経済状況が悪くないのに景気対策を要求していたのは大統領選前に良い環境作りをしたかったからだろうか。その後予想外に発生したパンデミックに見舞われる中、前大統領が落選したのは皮肉な話だ。

少し脱線した。

かつては効いていた金利の上げ下げだけでは経済の調整ができなくなってきているのは間違いないようだ。金利操作だけで充分でない部分は新たな資金供給で対応するというのが今後も常態化してゆくのではないだろうか。最初は効いていた薬を飲み続けるとだんだん効かなくなり、量が増えてゆくように。もしそうなれば「現金」は将来的にますます心もとない資産になってゆく。アメリカでは上位10%が約70%の資産を持っている、そしてその内容は株式や不動産等である、だから年々その保有資産の割合は増えているということが言われているが金融リテラシーが高い資産家ほどキャッシュポジションを減らし別のアセットで保有しているのは自然な行動なのだ。

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