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中国政府は2020年5月の全国人民代表大会(全人代)で「香港国家安全法」の導入を決めた。

その具体的な内容は6月に全人代常任委員会で作成されるとされているが、2015年に中国本土で施行された国家安全法の定義を参考にすると「国家政権、主権、統一および領土保全、人民の福祉、経済社会の持続可能な発展、その他の国家の重大な利益に危険がなく、内外の脅威に侵されない状態」(第2条)とされている。その具体的な運用は「売国、国家分裂、扇動反乱、政権の転覆および転覆を扇動するあらゆる行為、国家機密の窃取および漏えい、国外勢力による浸透・破壊・転覆・分裂活動を防止・制止・処罰する」(第15条)が参考になるかもしれない。

中国政府による香港国家安全法導入

これを受けて日本をはじめ海外諸国では「香港返還から50年間維持すると保証した一国二制度を反故にしようとする中国の試みだ!」という論調が大勢を占めている。米国のトランプ大統領は「香港を特別に扱う優遇措置を撤廃するプロセスを開始するように指示した」という声明を出した。アメリカは2019年11月に香港人権・民主主義法を制定し、香港の人権や民主主義がきちんと守られているかどうかを一年に一回アメリカの国務長官がレビューし、それによって香港優遇措置継続の是非を判断することになっていることに基づいていると思われる。個人的には昨年の「逃亡犯条例改正案」(撤回済み)同様、この「香港国家安全法」も無いほうが良いので国際世論に頑張ってほしいところだ。

香港の現状

さて実際に香港の状況はどうかというと香港国家安全法導入議案の採択に先立つ5月27日に香港立法会周辺で1000人規模の抗議活動が行われ数百人が逮捕されている。現在香港ではコロナウィルス流行の対策として9人以上の集会は禁止されている。一方、自分の周囲の生活圏はまったく平穏だ。以前と違うのはコロナの影響で人々がほぼ100%マスクをして、他の人と距離を詰めるのに気をつけているぐらいだ。

余談だが香港のコロナウィルス感染者はジョンズ・ホプキンス大学のサイトのデータによれば2020年6月3日時点で1,093人で死亡者数は4人。香港の人口は約750万人なので人口あたりの感染者の比率は0.014%(これは偶然にも人口約1億2,000万人で感染者数が16,852人の日本と同じ比率である)しかし死亡率は0.4%弱と極めて低い。実際4人が亡くなったのは流行の初期の方でここしばらく死者は出ていない。おそらく次の死者が出れば大ニュースとして新聞の一面を飾るレベルだ。

話を香港国家安全法に戻すと、6月に入ってから「香港で預金や運用をしている資金は大丈夫だろうか?」という問い合わせを複数頂いている。もし香港が完全に中国の一部になってしまった場合、そこに置いてある自分の資産が持ち出せなくなったり、極端な想像ではそれを没収されたりするのではないかという心配をされているのだろうと思う。

中国本土について

中国は社会主義とは名ばかりの一党独裁国家であることは間違いなく、最近は東シナ海や南シナ海などへの海洋進出・現状変更の野心をあからさまに出しており、自国内でもウイグル人やチベット人を迫害しているという話もよく聞く。その中国が急に国家安全法なるものを作って、自分の資産運用に関係のある香港に対して支配力を強めてきた。。心配になるのは無理のないことだ。だがここは落ち着いて整理する必要がある。

確かに中国は強権的な体制の国であるが、国際社会において非常に多くの国と国交を持ってまっとうな経済交流をしている国でもある。現に中国本土には香港とは比べものにならないぐらいおびただしい数の外国人が住んだり、訪れたりしている。そして多くの外国人が中国本土に資産や資金を持っているが、それが政府によって侵害されている事実はない。なのでもし前述のような心配をしている場合はまずそれを再認識してほしい。

一国二制度について

次に本当に香港の一国二制度の状態がすぐに解消されて中国の一部になってしまう可能性があるのかどうか?ある意味、「中国が香港政府の頭越しで香港を統制する法律を決めた。これは一国二制度の崩壊だ!」という論調が盛んなのは結構なことである。これを事ある毎に国際社会が叫べば中国に対する牽制になるからだ。

しかしこれを我々が鵜呑みにして本当にそうなってしまったと信じこんでしまってはいけない。確かに今回中国は特別行政区である香港に関連する法律を中国本土側だけで勝手に作ってしまったという点で一歩踏み込んで来たのは間違いない。ただ香港には依然として中国政府とは別の香港政府があり、人民元とは別の香港ドルがあり、まだまだ中国と同じ制度の下にあると言えない。

確かに中国は将来に渡ってじわじわとそういうところも変えてゆく可能性はある。しかし1997年の香港返還から50年後の2047年まで香港の一国二制度を維持するということは1984年の中英連合声明で決められたことである。これを破るのは国際公約違反であり、制裁の対象になりうる深刻な事態であることを理解しておく必要がある。仮に中国が2047年より前に香港政府や香港ドルを廃止する動きを見せればそれは大きな問題である。一方でもしそれを2047年までに少しずつ時間をかけて変えてゆくなら完全な約束違反とは言えないだろう。(逆にずっと何も変えずに2047年7月1日に一夜にしてすべてが変わる、というのが良いのかどうかも想像してみる必要があるのではないか?)もちろん国際社会には中国がまた少しでも現状変更をしようとしたら大いに騒いで力いっぱい牽制してほしい。

マーケットの反応

さて香港の株価指数であるハンセン指数は香港国家安全法が決められた先週末から約6%も上昇している。言葉で語る報道はある程度発信者が意図を持ってリスナーを誘導できるが投資家が細心の注意を払ってリスクを避けながらお金を運用するマーケットが真実に逆らうことは難しい。いろんなニュースを見比べながらも時々こうしてマーケットに確認するということも怠らないようにしたい。

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