HSBC香港の口座開設に関わって10年以上の歳月が過ぎたが最近いよいよ本格的に封印されることもあるのかもしれないと感じている、、これまでも口座開設手続きの際に提出する住所証明の規定が強化されたり、英会話力のチェックが厳しくなったり、サポートスタッフが同席できなくなったりという形で徐々にハードルが上がっていた。

その度にスムーズに手続きが進むような資料の準備に努めたり、想定英会話集をまとめて配布したり、時にはスカイプやLINEを通じて英会話トレーニングをおこなったりすれば対応できていた。ところが今回HSBC香港はどうやら受け入れ人数に限度を設けたようだ。

我々は常に香港で銀行側と連携を取り、口座開設時には事前に予約を入れて臨んでいるのだが、10月になって日本人の新規口座の開設数が制限されると伝えられた。それでも先月中は目に見えるような影響はなかったが今月に入って予約を取ろうとしたら「その日はもう制限を超えているから別の日に変更してください」と言われるケースが実際に出てきた。どうやら総量規制は本当らしい、、という現段階でわかっていることだ。

在外資産の把握:租税条約

語学力を求められるぐらいであれば適切な努力と対策で何とかなるが、人数に制限が設けられると正直なかなか厄介だ。そもそも「国」は自国民が海外に口座を作ってそちらにお金を移しておくことをあまり快く思っていない。「国」というのは日本だけではなく、世界中のあらゆる国家のことである。それはおそらく以前、海外に送ってしまったお金の行方を自国の金融当局が把握することができなかったからだろう。

A国の金融当局は自国の銀行に対して調査権を持っているので預金者の情報を把握することはできるが、海外のB国の銀行に「我が国の国民❍❍の銀行口座の内容を開示しなさい」と言っても無視されるだろう。その権限がないからだ。

つまりその頃はお金を密かに国外に持ち出して海外の銀行に入金しておけば「国」はそれを追いかけることはできなかった。これが脱税の温床になっていたのは容易に想像できるし、実際にそういう事例は数多あった。そのうち同じ悩みをかかえる「国」同士がお互いの国民・法人の自国内の資産情報を交換できる租税条約を結んだ。租税条約は本来、お互いの国の自国民・法人の海外での経済活動で二重課税が発生しないように所得の情報を交換する目的で結ばれたものだが、その過程で相手国に自国民の海外資産の調査の依頼をすることができるようになった。

在外資産の把握:CRS(共通報告基準)

現在日本は56カ国と租税条約を締結している。逆をいえば56カ国以外の国にお金を置いてあればその把握はまだ難しいということだった。2017年「共通報告基準(CRS)」が発効し約100カ国の間で海外口座内の預金情報を交換できるようになった。加盟国で銀行口座を開設するときに必ず納税者番号(日本で言うマイナンバー)の登録が義務付けられ、それぞれの金融当局は特定の国民の納税者番号をシステムに照会するだけで海外口座内の預金額を閲覧できるようになった。HSBC香港でも2017年1月1日より口座開設のときに納税者番号の登録が必須になっている。

さらに2018年中頃よりCRS開始以前に口座開設した人にもオンラインを通じて納税者番号の登録を促す通知が来ている。登録をしないと口座の利用が制限される可能性があるので是非なしである。一方でこのことにより「国」が海外口座に対して眉をしかめる理由はほぼなくなったと言えるだろう。しかしこれまでの一連の流れの中で各国の銀行では非居住者の口座開設に関して倦怠感が生じているようである。

CRSの発動で始まった納税者番号の把握や金融当局への報告にしても膨大な作業やそれにともなう経費がかかっているはずである。”だったら海外に住んでいる外国人の口座開設など引き受けない方が良い。。”という動機が生まれても無理はない。CRSの開始と関係があるのかどうかはわからないがシンガポールや中国など多くの国の銀行では口座開設のために国内の居住ビザなどが必要になっている。香港内でも恒生銀行など複数の銀行で同様のルールが設定されている。それがいつHSBC香港に波及してもおかしくはない。

当然のことだが海外の銀行口座は脱税のために作るものではない。自国だけに資産を集中させているリスクの回避であり、より迅速に、低コストで資金を動かし資産運用に役立てるためである。その道が銀行側から閉ざされようとしている、というのは残念なことだ。。それならそれで仕方がない。彼らも民間企業なので利益を追求するために時代の流れに応じてやり方を変えるのは当然のこ
とだ。

人数制限ができたとは言え、今はまだHSBC香港の口座開設は可能である。ただ当然予約は取りにくくなっている。もし我々のサポートを受けてHSBC香港口座を開設したい場合はできるだけ早めに動くべきなのは言うまでもない。

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