日本の相続税の最高税率は相続財産に対して55%という、ほとんど懲罰的とも言えるような税金がかかる。一方で相続税には基礎控除があり、相続財産が控除額以下の人は相続税を支払う必要はない。
相続税の基礎控除額は3,000万円に加えて、相続人一人あたりにつき600万円だ。相続人が母一人、子供二人というケースでは3,000万円+600万円X3人=4,800万円が控除額になる。つまりこの家庭の場合、相続資産が4,800万円以下であれば相続税を払う必要はない。実際どれぐらいの人が相続税の対象になるのだろうか?
国税庁が発表している「相続税の申告事績の概要」によると、令和4年(2022年)度も令和5年(2023年)度もざっくり150万人の被相続人の死亡に対して約15万人なので、相続税がかかる世帯はだいたい10%というところだ。
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf
出典:国税庁
世の中の大多数を占める一般庶民にとっては相続税は無縁なものではあるが約10%の対象者にとっては時に深刻な問題となり得る。
仮に上記の家族に控除額を引いたあとの取得額で1億円の相続があったとする。法定相続では配偶者に二分の一、残りを子どもたちで均等に分けることになっている。配偶者は5000万円、子どもたちはそれぞれ2500万円ずつという配分だ。相続税の税率は以下の通り。
この家族の相続税の支払額を計算すると、
配偶者の相続税は5,000万円X20%-200万円=800万円
子供たちはそれぞれ2,500万円X15%-50万円=325万円
相続税の合計金額は800万円+325万円X2人=1,450万円
となる。
なかなかの金額であるが、相続した1億5,000万円ぐらいの財産が現金であればもちろん支払えない金額ではない。ただ、現実には資産の多くが自宅を含む不動産や株式などの金融資産という形であることがほとんどだ。相続税は原則現金納付なので、その支払い資金の調達に苦労するケースも少なくない。自宅は残された配偶者が引き続き住むので売却できないし、株式も上場株式のようにすぐに市場で売れるものであれば良いが、仮に非上場の自社株などであればそれを現金化することは簡単ではない。また、10億円の資産のほとんどが地方の広大な山林田畑などの土地ということもあり得る。そうなると55%という最高税率に達して、4億円ぐらいの現金支払いをしなければならない。売却して現金化しようにもそういう土地の需要は小さく、売却するのは難しい。
そんなときのために相続税の物納という方法もあるが、その条件は厳しく、破産ギリギリまで現金納付の努力を迫られることも少なくない。なので、対象の人は事前に周到な準備をして、やがて襲ってくることが確実な相続税に対して適切な対策が必要だ。
その対策には大きく分けて、
・被相続人が存命中に無税で相続財産を減少させておく
・被相続人の死亡時に相続税支払いに充分な現金が手にできるように準備しておく
というものが考えられる。